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【2024年問題考察】標準約款改正で何が変わるのか?

標準約款改正

 

 

標準約款とは

標準約款とは、貨物の運送契約に関する基本的なルールを国土交通省が定めたものです。約款とは本来、事業者それぞれが、自社が行う取り引きの基本的な枠組みを定めたものですので、各社で違いがあって然るべきものですが、物流は日本経済を支える重要な事業のため、国としてある程度の水準を担保することを目的にこの標準約款を定めています。もちろん、自社で作成した独自約款で事業を行うこともできますが、許可申請時にこの標準約款を使用することを届け出ている事業者(おそらく許可事業者の大半)は、改正によって自社の取り引きの基本ルールも同時に変更になるため無視できません。

今回の改正は、物流業界の持続的な成長を支え、トラック運送事業者が健全に事業を運営できるようにするために行われました。改正された標準約款は、2024年(令和6年)6月1日から施行されます。

主な改正点は以下の通りです。

 

標準約款の改正点

 

1. 荷待ち・荷役作業など、運送以外のサービス内容の明確化と対価収受の明確化

 

「運送」とは目的の場所へ運ぶことであると、国語辞書には載っています。荷物をトラックに積んで実際に走行している時間の対価として発生するのが「運賃」です。
運送事業者とは、本来「運ぶこと」のみをするはずが、いつからかサービスの一環として荷積みや荷下ろしなどもやるようになっていき、サービスですのでそこに掛かる労力に対しての料金を請求できないでいました。
この「運送」と、それに附随するあらゆる「附帯業務」をはっきりと区別し、「運送」っでは運賃を、「附帯業務」では料金を、それぞれ収受しましょうというのが今回の改正です。

改正前:適正な運賃・料金の収受を目的として、平成29年の改正時に「待機時間」、「附帯業務等」が具体的に区分される形で規定された一方、附帯業務である「積込み」「取卸し」等の業務は「第2章 運送業務等」のなかで規定されていたため、運送業務と荷待ち・荷役作業等の運送以外の業務の区切りが不明確であいまいでした。

 

改正後:「積込み」「取卸し」等の運送以外の業務については、「第2章 運送業務等」から切り離し、第3章を「附帯業務」から「積込み又は取卸し等」に改称して明確にした上で、この章のなかに定められました。
また、これら附帯業務が契約にないものであった場合、当該業務の対価を負担する主体についても不明確であいまいだったため、トラック運送事業者が運送以外の業務を引き受けた場合、契約にあるものもないものも対価を収受できるような改正内容となりました。

 

2. 運賃・料金や附帯業務の書面による交付

 

改正前:現行の「標準運送約款」「軽運送約款」には、荷送人(運送を申し込む人)による運送の申込みや、運送を引き受けるトラック運送事業者による運送の引受けについては、明確な規定がありませんでした。

 

改正後:荷送人とトラック運送事業者は、それぞれ運賃・料金、附帯業務等を記載した書面である「運送申込書」「運送引受書」を相互に交付する旨を新たに規定しました。

運送申込書には以下の事項を記載することが、標準運送約款の第6条に定められています。
 1.申込者の氏名又は商号並びに住所及び電話番号
 2.貨物の品名、品質及び重量又は容積並びにその荷造りの種類及び個数
 3.集貨及び配達又は発送及び到着の希望日時
 4.集貨先及び配達先又は発送地及び到着地(団地、アパートその他高層建築物にあっては、その名称及び電話番号を含む。)
 5.運送の扱種別
 6.運賃、料金(第十七条第二項に規定する利用運送手数料、第三十四条に規定する待機時間料、第六十一条に規定する積込料又は取卸料及び第六十二条第一項に規定する附帯業務料等をいう。)、燃料サーチャージ、有料道路利用料、立替金その他の費用(以下「運賃、料金等」という。)の支払方法
 7.荷受人の氏名又は商号並びに住所及び電話番号
 8.高価品については、貨物の種類及び価額
 9.第六十一条に規定する貨物の積込み又は取卸しを委託するときは、その旨
 10.第六十二条第一項に規定する附帯業務を委託するときは、その旨
 11.運送保険に付することを委託するときは、その旨
 12.特約事項があるときは、その内容
 13.本約款の内容について承諾する旨
 14.その他その貨物の運送に関し必要な事項

運送引受書には、同じく標準運送約款第7条に記載すべき事項が定められています。
 1.集貨及び配達又は発送及び到着の予定日時
 2.運賃、料金等の額

 

運送申込書に関しては「標準貨物自動車運送約款等の一部改正について」という通達に様式例が載っており、ここには運送引受書に記載すべき事項も併せて記載されています。そのため国は、この様式を複写ないしは2通作成し、お互いが1通ずつ保管することを想定しているのかもしれません。
もちろん、記載すべき事項が載っていればどんなフォーマットでも構いませんので、各社オリジナルの様式にしたり、各都道府県のトラック協会が独自に作成したりするかもしれませんね。

なお、これらの書面(運送申込書、運送引受書)は紙である必要はありません。昨今のデジタル化を進める動きを踏まえ、電子契約サービスを利用したり、改ざん防止措置を施したPDFファイルのメール送信、それら電子データのパソコンやクラウドサービスでの保存も認められています。

 

3. 利用運送(※)を行う場合における実運送事業者の商号・名称等の荷送人への通知等

※元請け運送事業者が自社のトラックで運ばずに、他の運送事業者に運んでもらういわゆる「庸車」のことを、法的には他社を利用すると言うことで「利用運送」と呼びます。

 

改正前:改正前の「標準運送約款」「軽運送約款」では、利用運送を行う場合がある旨は規定されていましたが、利用運送が行われた場合でも荷送人へ通知する制度が無かったため、荷送人が実運送事業者を把握することは困難であり、実際に運送を行う事業者がどこなのかが不明瞭でした。

 

改正後:利用運送を行う元請運送事業者は、実運送事業者の商号・名称等を荷送人に通知する旨が規定されました。また、利用運送に係る費用は「利用運送手数料」」(=下請け手数料)として収受する旨も追加されました。これにより、本来標準運賃で請求していた元請運送事業者が他社を利用しても、この元請事業者は荷送人に対して「利用運送手数料を追加請求できるため、実運送事業者も標準運賃を収受できるだろうとのことです。

理論的にはそうなのですが、果たしてそううまくいくのでしょうか?実運送事業者が標準運賃を収受するためには、元請運送事業者は標準運賃より更に高い金額で荷送人(=荷主)に請求することが必要不可欠です。ということは、荷主の理解を得ることが大前提であり必須要件になります。
このような制度を定める以上、国はトラックGメンによる監視と悪質な違反を繰り返す事業者に対して行う勧告・公表制度を有効活用するなどし、トラック事業者ではなく荷主側への監視・取り締まりを徹底継続する必要があります。
机上の空論で終わらせることなく、制度を作って「はい、これでいいでしょう」ではなく、それが現実化するまで継続的に目を光らせてもらいたいものです。

なお、利用運送手数料は、告示で定められた標準運賃にて10%とされています。

 

4.中止手数料の金額等の見直し

 

改正前:貸切の場合、どんな運送依頼だったとしても一律3,500円/台(小型車の場合は2,500円/台)しか請求できず、しかも積込み日の前日までに運送の中止をした場合は、中止手数料は発生しませんでした。

 

改正後:中止手数料の免除は前日までではなく3日前までとし、その金額は運送の中止時期や予定運賃(運送引受書に記載した運賃料金等)に応じて変動するものとなりました。具体的には以下の通りです。
・前々日に中止 最大20%
・前日に中止 最大30%
・当日に中止 最大50%

今までは前日に中止を言い渡されてもキャンセル料を請求できない上に、急に空いた穴を埋めようと法令に違反してしまうような無理な運行計画の依頼でもやむを得ず引き受けたりしていたトラック事業者が多いのではないでしょうか。

今回の改正により、実運送事業者は配車計画を立てやすくなりますし、仮に直前でキャンセルとなってもそれ相応のキャンセル料を請求できるため、ダメージを縮小することが期待されます。

 

5.運賃・料金等の店頭掲示事項のオンライン化

 

改正前:改正前の「標準運送約款」等では、「受付日時」「個人を対象とした運賃・料金等」「保険料率等」については、店頭に掲示することと定められていましたが、店頭という特定の場所に掲示していればよいというのは、利用者利便を考えたときにあまりよい制度とは言えませんでした。現実問題、自社のウェブサイト等に掲載しているトラック運送事業者はたくさんあります。

 

改正後:店頭に掲示しなくても、自社のウェブサイトに掲載していればよいとなりました。
なお、常時使用する従業員の数が20 人を超えるトラック運送事業者については、原則として、運賃・料金等を店頭での掲示に加え、自社のウェブサイトにも掲載しなければなりませんので、掲載されていない事業者の方はご準備ください。

 

・標準約款を使用するには

大前提として、標準約款と独自約款しか存在せず、独自約款を使用するには認可を受けなければなりません。この独自約款の認可申請をしたことがないトラック事業者は標準約款を使用しているはずです。その場合、何か特別な手続きは必要が無く、令和6年6月1日になると自動的に改正後の標準約款が適用となります。

 

許可申請書様式1-1の2枚目

 

・独自約款とは

標準約款は、国が定めた基本ルールです。現場では、どうしてもそのルール通りではうまくいかないこともあるでしょう。例えば、運送申込書と運送引受書がありますが、荷主との関係上、どうしても標準約款で定められた項目をすべて網羅するのが難しいなどの事情がある場合、その文言を削り、実際の運用に合わせた項目に変更したものを作らざるを得ません。しかし、このオリジナルを無制限に良しとしてしまうと経済の根幹である運送業の崩壊を招きかねないということで、標準約款と対になるオリジナル約款を通称「独自約款」と呼んでおり、この独自約款に基づいて運行する場合は、事前に認可を得る必要があるのです。

なお、独自約款を使用することについて認可申請をしなかった場合は、初回違反で20日車、再違反で40日車の行政処分を受ける可能性があります。

また、使用すると定めた約款によらない運送契約を締結した場合、最大100万円の罰金となります。

約款違反は非常に思い処分が下されますので、しっかりと吟味し、自社に合った約款の使用を届け出ることが大切です。

(参考)

貨物自動車運送事業法

第10条 一般貨物自動車運送事業者は、運送約款を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

2 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、次に掲げる基準によって、これをしなければならない。

 一 荷主の正当な利益を害するおそれがないものであること。

 二 少なくとも運賃及び料金の収受並びに一般貨物自動車運送事業者の責任に関する事項が明確に定められているものであること。

 三 前号の運賃及び料金の収受に関する事項については、国土交通省令で定める特別の事情がある場合を除き、運送の役務の対価としての運賃と運送の役務以外の役務又は特別に生ずる費用に係る料金とを区分して収受する旨が明確に定められているものであること。

3 国土交通大臣が標準運送約款を定めて公示した場合(これを変更して公示した場合を含む。)において、一般貨物自動車運送事業者が、標準運送約款と同一の運送約款を定め、又は現に定めている運送約款を標準運送約款と同一のものに変更したときは、その運送約款については、第一項の規定による認可を受けたものとみなす。

 

 

・標準約款改正はクリーンな経営の第一歩!荷主との交渉材料にしましょう!

今回の標準約款改正の中には、前向きに捉えられない内容もあるかもしれません。
しかし、昨今の運送業界の問題は多重下請け構造にあると言っても過言ではありません。多重下請けとなり、いわゆる「中抜き」が横行した結果、現場で走る実運送事業者が受け取れる運賃相場がどんどん下がってしまい、ドライバーの給与を守るため無理な運行を重ね、結果としてコンプライアンス違反に繋がってしまう。という悪循環です。

 

多重下請け構造の是正

 

遠い異国の地アメリカでも、一昔前までは多重下請けが横行し、今の日本と同じ悩みを抱えていたそうです。それは大きく分けてふたつです。

一点目は中抜きによる輸送事業の利益率低下。

二点目は事故発生時の責任の所在が明確でないことです。

アメリカは現在法令によって多重下請け構造を規制しています。運送事業と仲介事業とを同一の事業者が行うことを禁止し、運送事業者として業務を受託した場合は該当業務を再委託することを禁止する(トラック運送事業者による利用運送はできない)法案です。

 

今回の改正の目玉でもある運送申込書と運送引受書の相互交付と荷主に対する実運送事業者情報の開示、そして利用運送手数料(下請け手数料)の上乗せ請求。
これらの改正点は、上記アメリカとの共通問題点の是正と合致しますね。
ただ、この改正内容を機能させるためには、国による荷主への働きかけはもちろん、運送事業者の皆様が「どうせこんなんやったって」と斜に構えずチャンスと捉え、地道に契約変更や運賃アップの交渉を続けることが肝要です。

 

その結果、多重下請け構造が見直され、元請トラック事業者もしくは一次下請けが運ぶ=全トラック事業者が標準運賃を収受できるようになれば、皆さんにとっても良い結果なのでは無いかと思います。

今回の改正や昨年からのトラックGメンの活動など、様々な変化が無駄にならず運賃アップ、ドライバーの待遇改善に繋がることを願ってやみません。

 

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