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3月, 2024 - 運輸のミカタ

【2024年問題考察】標準約款改正で何が変わるのか?

標準約款改正

 

 

標準約款とは

標準約款とは、貨物の運送契約に関する基本的なルールを国土交通省が定めたものです。約款とは本来、事業者それぞれが、自社が行う取り引きの基本的な枠組みを定めたものですので、各社で違いがあって然るべきものですが、物流は日本経済を支える重要な事業のため、国としてある程度の水準を担保することを目的にこの標準約款を定めています。もちろん、自社で作成した独自約款で事業を行うこともできますが、許可申請時にこの標準約款を使用することを届け出ている事業者(おそらく許可事業者の大半)は、改正によって自社の取り引きの基本ルールも同時に変更になるため無視できません。

今回の改正は、物流業界の持続的な成長を支え、トラック運送事業者が健全に事業を運営できるようにするために行われました。改正された標準約款は、2024年(令和6年)6月1日から施行されます。

主な改正点は以下の通りです。

 

標準約款の改正点

 

1. 荷待ち・荷役作業など、運送以外のサービス内容の明確化と対価収受の明確化

 

「運送」とは目的の場所へ運ぶことであると、国語辞書には載っています。荷物をトラックに積んで実際に走行している時間の対価として発生するのが「運賃」です。
運送事業者とは、本来「運ぶこと」のみをするはずが、いつからかサービスの一環として荷積みや荷下ろしなどもやるようになっていき、サービスですのでそこに掛かる労力に対しての料金を請求できないでいました。
この「運送」と、それに附随するあらゆる「附帯業務」をはっきりと区別し、「運送」っでは運賃を、「附帯業務」では料金を、それぞれ収受しましょうというのが今回の改正です。

改正前:適正な運賃・料金の収受を目的として、平成29年の改正時に「待機時間」、「附帯業務等」が具体的に区分される形で規定された一方、附帯業務である「積込み」「取卸し」等の業務は「第2章 運送業務等」のなかで規定されていたため、運送業務と荷待ち・荷役作業等の運送以外の業務の区切りが不明確であいまいでした。

 

改正後:「積込み」「取卸し」等の運送以外の業務については、「第2章 運送業務等」から切り離し、第3章を「附帯業務」から「積込み又は取卸し等」に改称して明確にした上で、この章のなかに定められました。
また、これら附帯業務が契約にないものであった場合、当該業務の対価を負担する主体についても不明確であいまいだったため、トラック運送事業者が運送以外の業務を引き受けた場合、契約にあるものもないものも対価を収受できるような改正内容となりました。

 

2. 運賃・料金や附帯業務の書面による交付

 

改正前:現行の「標準運送約款」「軽運送約款」には、荷送人(運送を申し込む人)による運送の申込みや、運送を引き受けるトラック運送事業者による運送の引受けについては、明確な規定がありませんでした。

 

改正後:荷送人とトラック運送事業者は、それぞれ運賃・料金、附帯業務等を記載した書面である「運送申込書」「運送引受書」を相互に交付する旨を新たに規定しました。

運送申込書には以下の事項を記載することが、標準運送約款の第6条に定められています。
 1.申込者の氏名又は商号並びに住所及び電話番号
 2.貨物の品名、品質及び重量又は容積並びにその荷造りの種類及び個数
 3.集貨及び配達又は発送及び到着の希望日時
 4.集貨先及び配達先又は発送地及び到着地(団地、アパートその他高層建築物にあっては、その名称及び電話番号を含む。)
 5.運送の扱種別
 6.運賃、料金(第十七条第二項に規定する利用運送手数料、第三十四条に規定する待機時間料、第六十一条に規定する積込料又は取卸料及び第六十二条第一項に規定する附帯業務料等をいう。)、燃料サーチャージ、有料道路利用料、立替金その他の費用(以下「運賃、料金等」という。)の支払方法
 7.荷受人の氏名又は商号並びに住所及び電話番号
 8.高価品については、貨物の種類及び価額
 9.第六十一条に規定する貨物の積込み又は取卸しを委託するときは、その旨
 10.第六十二条第一項に規定する附帯業務を委託するときは、その旨
 11.運送保険に付することを委託するときは、その旨
 12.特約事項があるときは、その内容
 13.本約款の内容について承諾する旨
 14.その他その貨物の運送に関し必要な事項

運送引受書には、同じく標準運送約款第7条に記載すべき事項が定められています。
 1.集貨及び配達又は発送及び到着の予定日時
 2.運賃、料金等の額

 

運送申込書に関しては「標準貨物自動車運送約款等の一部改正について」という通達に様式例が載っており、ここには運送引受書に記載すべき事項も併せて記載されています。そのため国は、この様式を複写ないしは2通作成し、お互いが1通ずつ保管することを想定しているのかもしれません。
もちろん、記載すべき事項が載っていればどんなフォーマットでも構いませんので、各社オリジナルの様式にしたり、各都道府県のトラック協会が独自に作成したりするかもしれませんね。

なお、これらの書面(運送申込書、運送引受書)は紙である必要はありません。昨今のデジタル化を進める動きを踏まえ、電子契約サービスを利用したり、改ざん防止措置を施したPDFファイルのメール送信、それら電子データのパソコンやクラウドサービスでの保存も認められています。

 

3. 利用運送(※)を行う場合における実運送事業者の商号・名称等の荷送人への通知等

※元請け運送事業者が自社のトラックで運ばずに、他の運送事業者に運んでもらういわゆる「庸車」のことを、法的には他社を利用すると言うことで「利用運送」と呼びます。

 

改正前:改正前の「標準運送約款」「軽運送約款」では、利用運送を行う場合がある旨は規定されていましたが、利用運送が行われた場合でも荷送人へ通知する制度が無かったため、荷送人が実運送事業者を把握することは困難であり、実際に運送を行う事業者がどこなのかが不明瞭でした。

 

改正後:利用運送を行う元請運送事業者は、実運送事業者の商号・名称等を荷送人に通知する旨が規定されました。また、利用運送に係る費用は「利用運送手数料」」(=下請け手数料)として収受する旨も追加されました。これにより、本来標準運賃で請求していた元請運送事業者が他社を利用しても、この元請事業者は荷送人に対して「利用運送手数料を追加請求できるため、実運送事業者も標準運賃を収受できるだろうとのことです。

理論的にはそうなのですが、果たしてそううまくいくのでしょうか?実運送事業者が標準運賃を収受するためには、元請運送事業者は標準運賃より更に高い金額で荷送人(=荷主)に請求することが必要不可欠です。ということは、荷主の理解を得ることが大前提であり必須要件になります。
このような制度を定める以上、国はトラックGメンによる監視と悪質な違反を繰り返す事業者に対して行う勧告・公表制度を有効活用するなどし、トラック事業者ではなく荷主側への監視・取り締まりを徹底継続する必要があります。
机上の空論で終わらせることなく、制度を作って「はい、これでいいでしょう」ではなく、それが現実化するまで継続的に目を光らせてもらいたいものです。

なお、利用運送手数料は、告示で定められた標準運賃にて10%とされています。

 

4.中止手数料の金額等の見直し

 

改正前:貸切の場合、どんな運送依頼だったとしても一律3,500円/台(小型車の場合は2,500円/台)しか請求できず、しかも積込み日の前日までに運送の中止をした場合は、中止手数料は発生しませんでした。

 

改正後:中止手数料の免除は前日までではなく3日前までとし、その金額は運送の中止時期や予定運賃(運送引受書に記載した運賃料金等)に応じて変動するものとなりました。具体的には以下の通りです。
・前々日に中止 最大20%
・前日に中止 最大30%
・当日に中止 最大50%

今までは前日に中止を言い渡されてもキャンセル料を請求できない上に、急に空いた穴を埋めようと法令に違反してしまうような無理な運行計画の依頼でもやむを得ず引き受けたりしていたトラック事業者が多いのではないでしょうか。

今回の改正により、実運送事業者は配車計画を立てやすくなりますし、仮に直前でキャンセルとなってもそれ相応のキャンセル料を請求できるため、ダメージを縮小することが期待されます。

 

5.運賃・料金等の店頭掲示事項のオンライン化

 

改正前:改正前の「標準運送約款」等では、「受付日時」「個人を対象とした運賃・料金等」「保険料率等」については、店頭に掲示することと定められていましたが、店頭という特定の場所に掲示していればよいというのは、利用者利便を考えたときにあまりよい制度とは言えませんでした。現実問題、自社のウェブサイト等に掲載しているトラック運送事業者はたくさんあります。

 

改正後:店頭に掲示しなくても、自社のウェブサイトに掲載していればよいとなりました。
なお、常時使用する従業員の数が20 人を超えるトラック運送事業者については、原則として、運賃・料金等を店頭での掲示に加え、自社のウェブサイトにも掲載しなければなりませんので、掲載されていない事業者の方はご準備ください。

 

・標準約款を使用するには

大前提として、標準約款と独自約款しか存在せず、独自約款を使用するには認可を受けなければなりません。この独自約款の認可申請をしたことがないトラック事業者は標準約款を使用しているはずです。その場合、何か特別な手続きは必要が無く、令和6年6月1日になると自動的に改正後の標準約款が適用となります。

 

許可申請書様式1-1の2枚目

 

・独自約款とは

標準約款は、国が定めた基本ルールです。現場では、どうしてもそのルール通りではうまくいかないこともあるでしょう。例えば、運送申込書と運送引受書がありますが、荷主との関係上、どうしても標準約款で定められた項目をすべて網羅するのが難しいなどの事情がある場合、その文言を削り、実際の運用に合わせた項目に変更したものを作らざるを得ません。しかし、このオリジナルを無制限に良しとしてしまうと経済の根幹である運送業の崩壊を招きかねないということで、標準約款と対になるオリジナル約款を通称「独自約款」と呼んでおり、この独自約款に基づいて運行する場合は、事前に認可を得る必要があるのです。

なお、独自約款を使用することについて認可申請をしなかった場合は、初回違反で20日車、再違反で40日車の行政処分を受ける可能性があります。

また、使用すると定めた約款によらない運送契約を締結した場合、最大100万円の罰金となります。

約款違反は非常に思い処分が下されますので、しっかりと吟味し、自社に合った約款の使用を届け出ることが大切です。

(参考)

貨物自動車運送事業法

第10条 一般貨物自動車運送事業者は、運送約款を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

2 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、次に掲げる基準によって、これをしなければならない。

 一 荷主の正当な利益を害するおそれがないものであること。

 二 少なくとも運賃及び料金の収受並びに一般貨物自動車運送事業者の責任に関する事項が明確に定められているものであること。

 三 前号の運賃及び料金の収受に関する事項については、国土交通省令で定める特別の事情がある場合を除き、運送の役務の対価としての運賃と運送の役務以外の役務又は特別に生ずる費用に係る料金とを区分して収受する旨が明確に定められているものであること。

3 国土交通大臣が標準運送約款を定めて公示した場合(これを変更して公示した場合を含む。)において、一般貨物自動車運送事業者が、標準運送約款と同一の運送約款を定め、又は現に定めている運送約款を標準運送約款と同一のものに変更したときは、その運送約款については、第一項の規定による認可を受けたものとみなす。

 

 

・標準約款改正はクリーンな経営の第一歩!荷主との交渉材料にしましょう!

今回の標準約款改正の中には、前向きに捉えられない内容もあるかもしれません。
しかし、昨今の運送業界の問題は多重下請け構造にあると言っても過言ではありません。多重下請けとなり、いわゆる「中抜き」が横行した結果、現場で走る実運送事業者が受け取れる運賃相場がどんどん下がってしまい、ドライバーの給与を守るため無理な運行を重ね、結果としてコンプライアンス違反に繋がってしまう。という悪循環です。

 

多重下請け構造の是正

 

遠い異国の地アメリカでも、一昔前までは多重下請けが横行し、今の日本と同じ悩みを抱えていたそうです。それは大きく分けてふたつです。

一点目は中抜きによる輸送事業の利益率低下。

二点目は事故発生時の責任の所在が明確でないことです。

アメリカは現在法令によって多重下請け構造を規制しています。運送事業と仲介事業とを同一の事業者が行うことを禁止し、運送事業者として業務を受託した場合は該当業務を再委託することを禁止する(トラック運送事業者による利用運送はできない)法案です。

 

今回の改正の目玉でもある運送申込書と運送引受書の相互交付と荷主に対する実運送事業者情報の開示、そして利用運送手数料(下請け手数料)の上乗せ請求。
これらの改正点は、上記アメリカとの共通問題点の是正と合致しますね。
ただ、この改正内容を機能させるためには、国による荷主への働きかけはもちろん、運送事業者の皆様が「どうせこんなんやったって」と斜に構えずチャンスと捉え、地道に契約変更や運賃アップの交渉を続けることが肝要です。

 

その結果、多重下請け構造が見直され、元請トラック事業者もしくは一次下請けが運ぶ=全トラック事業者が標準運賃を収受できるようになれば、皆さんにとっても良い結果なのでは無いかと思います。

今回の改正や昨年からのトラックGメンの活動など、様々な変化が無駄にならず運賃アップ、ドライバーの待遇改善に繋がることを願ってやみません。

 

まずはお気軽にお問合せください!

 

整備管理者選任前研修(埼玉県)の開催案内が公表されています ~令和6年度上半期~

整備管理者の選任前研修は民間企業による研修が無く、運輸支局が開催するものに限られます。また開催数が限られているため、近隣の運輸支局で受講したい場合は、早めの確認と申し込みが重要です。

埼玉運輸支局による整備管理者選任前研修の日程が発表されており、申込受付開始が迫っておりますので、受講を予定されている方は申請し忘れることが無いようお気をつけください。

 

令和6年度上半期 整備管理者選任前研修予定、申込方法(埼玉運輸支局)

 

開催日 申込受付期間(時間厳守)
令和6年5月8日(水) 午前/午後

令和6年5月9日(木) 午前/午後

令和6年4月2日(火)17:00~

    4月9日(火)17:00

令和6年7月2日(火) 午前/午後

令和6年7月3日(水) 午前/午後

令和6年5月28日(火)17:00~

    6月4日(火)17:00

令和6年9月3日(水) 午前/午後

令和6年9月4日(木) 午前/午後

令和6年7月30日(火)17:00~

    8月6日(火)17:00

 

当日の時間割 午前の部

午後の部

受付 8:40~9:00

受付 13:10~13:30

研修9:00~12:00

研修13:30~16:30

半日研修。時間厳守。受付時間になったら3階へ。
会場 埼玉運輸支局 3階会議室

埼玉県さいたま市中釘2154-2

当日の持ち物 自動車運転免許証等、筆記用具、予約確定メール(画面か紙を受付で提示)
申込方法

(今年度より変更)

メールで以下の内容のみ記載・添付してお申込み下さい。(必要事項以外不要)

件名:(例)国土太郎(件名に受講する方の名前を記載)

本文:(例)①○月○日午前 ②○月△日午後(①は第1希望を示す)

(本文に第2希望までを午前・午後の別も記載)

添付:自動車運転免許証等写し(裏面の記載がある場合は裏面も)

申込先 ktt-saitama-kensyuu@ki.mlit.co.jp
注意事項 ①予約は先着順で定員となり次第締切りとなります。

②メール1通につき1名のみの受付となります。

③申込みの約20分後(業務時間外は業務開始後30分程度)に届いた旨を伝える自動返信を行います。

なお、同一アドレスから複数回の申込みをした場合の自動返信は最初のメールのみに行います。

受講可否については自動返信とは別で集計後にメールで連絡しますのでご注意ください。

④申込期間外の申込みは受講可否のメールは致しません。(自動返信はあります)

⑤申込内容に疑義等が生じた場合はメールで連絡します。

24時間以内にご返答がない場合はキャンセルとさせていただきますのでご了承願います。

⑥キャンセルされる場合は必ずご連絡をお願いします。

無断キャンセルがあった場合は、次回の本研修を予約する際の受講優先度に影響します。

お問合せ 埼玉運輸支局保安担当:048-624-1835 ダイヤルイン3

(旧版)役員法令試験当日に配布される条文集が新しくなりました!

※このページは旧版の案内になります。更新版はこちら

 

(旧版)役員法令試験 関係条文集の令和6年2月度版が公開されました

令和6年2月、関東運輸局のホームページに新しい条文集が公開されました(条文集のダウンロードリンクは下部にございます)

 

関東運輸局管内(埼玉県、東京都、神奈川県、千葉県、群馬県、栃木県、茨城県、山梨県)の事業者様は、新規許可申請後の役員法令試験は関東運輸局(神奈川県横浜市)にて受験することとなります。

 

今後の役員法令試験ではこちらの条文集が当日配布されますので、勉強される際はこちらをご利用ください。

 

試験問題及び回答は条文集に書いてあるとはいえ、事前に対策をしない限り、当日配布されても使いこなすことは不可能です。

 

当社の役員法令試験対策講義では、実際に当日配布される条文集の使い方等もレクチャーします。

 

オリジナルテキストと過去問を使いながら、条文集の使い方もマスターしていただきますので、当日慌てることなく受験することができるのは大きなアドバンテージです。

 

元学習塾講師、都立中学校教育支援事業講師、大学や不動産会社での宅建試験対策講義講師を歴任した行政書士が直々に伝授します。

 

役員法令試験に関しての詳しい記事はこちら

 

受験が決まっているけどどうやって勉強したらいいか分からないという方は、ぜひ一度ご受講ください。

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トラサポ通信(運輸のミカタVer.):2024年3月号~多重下請け是正の動き&ドライバー年間教育12項目⑪健康管理の重要性~

多重下請けの是正と健康管理の重要性

運輸のミカタとトラサポでは、毎月「気になるニュース」と「ドライバー教育道場」と題して、運送業界を取り巻く現状とドライバーの年間教育に役立つ情報を発信していきます。

今月の記事はこちら(運輸のミカタVer.は大幅な加筆修正を行った完全版です)

気になるニュース

多重下請けの実態と運送業界の未来

日本経済新聞にて『トラック運転手が不足する「2024年問題」を巡り、政府が物流関連2法を今国会で改正し、対策に乗り出す。輸送業務の委託を重ねる「多重下請け」を是正するため、元請け業者に取引管理簿の作成を義務づける。』と報道されました。

運送業の多重下請け是正 2024年問題で法改正へ – 日本経済新聞 (nikkei.com)

多重下請構造が実運送事業者の利益を蝕んでいる要因だということです。

 

日本の運送業界は「2024年問題」に直面しています。これは運賃相場の低下と深刻なドライバー不足に直結しています。

この問題の根底にあるのが、多重下請け構造です。多重下請けとは、元請け企業が下請け企業に業務を委託し、その下請け企業がさらに別の企業に業務を委託することを繰り返す構造を指します。「孫請け」「ひ孫請け」「二次受け」「三次受け」「四次受け」とも呼ばれています。
この多重下請けの結果、仕事の最終段階である実運送事業者の利益が著しく減少するという問題が発生しています。利益が減少するとドライバーへの適正な報酬の支払いが困難となり、結果としてドライバー不足を招いてしまいます。すると、利益の減少とドライバー不足を補うために、ひとりのドライバーが長時間運行を強いられることとなり、結果としてコンプライアンスが守られず、ドライバー自身の心身の不調にも繋がってしまい、更にドライバーが辞めるという負のスパイラルが止まらなくなってしまいます。
そのため、この構造は運送業界の持続可能性に対する大きな脅威となっており、解決が急務とされています。多重下請け構造の是正が叫ばれる中、政府は物流関連2法(物流効率化法と一般貨物自動車運送事業法)の改正に乗り出しました。

 

多重下請けの是正への動き

すでに物流関連2法(物流効率化法と一般貨物自動車運送事業法)の改正案は公表されていて、その中では「特定事業者」や「物流統括管理者」という新しい管理構造もできてきます。

「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」を閣議決定 – 国土交通省

具体的な対策として、荷主には「一定規模以上の貨物を扱う企業を『特定事業者』とする」「運転手の負担軽減に向けた計画策定と定期報告を義務化」「『物流統括管理者』の選任を求める」、元請けとなる運送事業者には「委託先の下請け企業名・業務内容などを記した管理簿の作成を義務化」「荷造り・仕分けといった付帯業務料などの契約書への明記を必須化」などが挙げられます。取引管理簿の作成等を義務付けることで、透明性の高い取引の実現可能性が高まり、これにより、下請け企業への適正な報酬の支払いが保証され、運送業界全体の健全な発展が期待されます。さらに、特定事業者や物流統括管理者という新しい制度も導入され、業界の構造改革が進められています。

物流2法の改正案が閣議決定された

現状は閣議決定の段階

各事業者に対する措置の内容

今回の改正は吉と出るか凶と出るか

 

これらの改革は、長期的に見て運送業界の質の向上に寄与し、ドライバー不足問題の解消へと繋がることが期待されていますが、制度が複雑になって関係事業者の負担が増えた結果、実効性がどうなのか甚だ疑問ではあります。
とは言え、国も本気で物流能力を保持しようとしていることは感じます。ぜひこの時流に乗り運賃値上げ交渉を成立させたいものです。

 

運賃値上げ交渉の契機

政府のこれらの取り組みは、運送業界における運賃値上げ交渉の新たな契機となっています。適正な運賃の確保は、ドライバーに対して適切な報酬を支払うための最重要課題と言っても過言ではありません。運賃が上がることで経営が安定化し、ドライバーが長時間運行をする必要が無くなり、休息も適度に取ることができるでしょう。ワークライフバランスが適切なものとなることで、ドライバーの仕事に対する満足度が向上し、業界全体の魅力が高まることが期待されます。
運送業界では長らく低運賃、低賃金の問題が指摘されてきましたが、政府の介入により、荷主や元請けとなる運送会社は適正な運賃を設定することが求められ、結果としてドライバーの待遇改善に繋がると考えられます。運賃の適正化は、ドライバーの仕事の質を向上させるだけでなく、新たな人材の業界への参入を促す可能性もあります。運送業界における健全な競争環境の構築と持続可能な成長のためには、このような運賃値上げ交渉が鍵となります。

 

ドライバー教育道場

運送事業者が行わなければならない年間12項目の教育内容を、毎月少しずつ掲載していきます。
今月は「健康管理の重要性」についてです。

プロドライバーと呼ばれる職業ドライバーの皆さんの健康管理は、単に個人の問題ではなく、社会全体の安全性や経済活動の継続性にも直結しています。

 

ドライバーの健康リスク

トラック運転手が直面する健康リスクには多岐にわたるものがあります。長時間の運転による肉体的疲労はもちろん、不規則な生活リズムによる睡眠障害、運動不足による生活習慣病のリスク増加などが挙げられます。また、ストレス管理も重要な課題です。これらのリスクが、運転中の事故率の上昇につながります。

 

1. 長時間労働による肉体的疲労
プロドライバーは、長時間運転を強いられることが多く、これが肉体的な疲労を引き起こします。例えば、大型トラックの運転手の労働時間は、全作業平均と比較して20%以上長いとの調査結果があります。そのため運転手は慢性的な疲労に陥りやすく、集中力の低下や反応速度の鈍化を招き、事故のリスクを高めることにつながります。

 

2. 不規則な生活リズムと睡眠障害
長距離運転に伴う夜間労働やシフト制勤務は、不規則な生活リズムを生み出し、睡眠障害の原因となります。睡眠障害は、運転の安全性だけでなく、心血管疾患のリスクをも高めることが知られています。実際、トラック運転手の中には、一般人口と比較して睡眠時無呼吸症候群の発症率が高いとの報告もあります。

 

3. 運動不足による生活習慣病のリスク
運転中の長時間座位姿勢は、運動不足を引き起こし、肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます。これらの疾患は、治療が長期にわたる可能性が高く、それだけ時間もお金も浪費してしまうことに繋がります。長時間働いて得た給料と少ない休日が、通院や投薬等の治療に充てられてしまったら、こんな虚しいことは無いですよね。

 

4. 精神的な健康問題
交通渋滞、納期のプレッシャー、孤独感など、運転手が経験するストレスは多岐にわたります。また、長時間労働や深夜労働、交通事故を原因とした給与カット等、運送業特有の原因で精神障害を発症するケースがあります。メンタルの不調は注意力の散漫等に直結するため、交通事故の原因となりやすく、特に注意が必要です。

 

花粉症による運転リスク

花粉症の季節は、多くのドライバーにとって厳しい時期です。くしゃみや目のかゆみなどの症状は、運転中の集中力を大きく損なう原因となり、くしゃみをして死傷事故に繋がった事例もあります。

花粉症対策として、早めの薬の服用やマスクの着用が推奨されます。特に、運転前の薬の服用は、症状の軽減に有効であり、運転中の不意のくしゃみや目のかゆみを防ぐことにつながります。市販薬の中には眠くなりにくいものもありますので、自分に合った薬を見つけることが大切です。

 

・舌下免疫療法と長期的な対策
舌下免疫療法は、花粉症の根本的な治療法として注目されています。政府も推奨しているこの治療法は、特定の花粉に対する耐性を身体につけることで、症状を軽減させる効果が期待されます。運転者にとっても、長期的な視点で花粉症対策を考える上で有効な選択肢と言えるでしょう。

 

・マスク着用時の対策
マスクを着用することは、花粉症対策として非常に有効ですが、眼鏡の曇りという問題が生じます。これを防ぐためには、曇り止めを利用することが推奨されます。また、車内の空気を清浄するために、空気清浄機を使用することも一つの方法です。

 

・食生活での対策
ビタミンCの摂取:ビタミンCには、アレルギー反応を抑制する効果があるとされています。柑橘類や緑黄色野菜など、ビタミンCを豊富に含む食品を積極的に取り入れましょう。
バランスの良い食事:免疫機能を正常に保つためには、バランスの取れた食事が不可欠です。特に、腸内環境は免疫に大きく影響するため、ヨーグルトや納豆、キムチなどの発酵食品などを取り入れ、腸内フローラを整えることが推奨されます。

 

・生活習慣での対策
十分な睡眠とストレス管理:良質な睡眠は、免疫力を維持する上で重要です。また、ストレスはアレルギー反応を悪化させることが知られていますので、日常生活でリラクゼーションの時間を設けることも大切です。

定期的な運動:適度な運動は、体の抵抗力を高め、花粉症の症状を和らげる効果が期待できます。運行中でも、信号待ちで停止したわずかな時間に首を回すなどのストレッチを行うだけでも違いますので、隙間時間を有効活用したり、普段の生活に少しずつ取り入れてみてください。

 

・医療機関での対応
花粉症の症状が出始めたら、速やかに専門医の診断を受けることが大切です。どの花粉に反応しているのかを知るためにも、アレルギー検査を受診してみましょう。
その上で、症状に合わせた抗ヒスタミン薬やステロイド鼻スプレーなどを処方してもらいます。最近では眠くなりにくい薬もありますので、飲み薬をもらうときはお願いしてみてください。

 

・安全運転のための心がけ
運転中に花粉症の症状が出た場合は、無理をせずに速やかに安全な場所に停車し、症状が落ち着くまで待つことが重要です。また、定期的に休憩を取り、症状に配慮した運転計画を立てることが求められます。

 

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